東京地方裁判所 平成2年(ワ)14062号・平3年(ワ)2569号 判決
主文
一 原告(反訴被告)の請求及び被告(反訴原告)の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、本訴反訴ともにこれを三分し、その二を原告(反訴被告)の負担とし、その余は被告(反訴原告)の負担とする。
理由
第一 本訴請求について
一 本訴請求原因1ないし3の各事実及び同5の事実のうち、原告が、平成二年四月一八日、本件契約を解除する旨の意思表示をしたこと、本件契約の業務内容として基本設計が完了した段階で建築確認申請ができる状態に至らねばならないことは当事者間に争いがない。
次に、《証拠略》によれば、本件契約書の業務実施期間には実施設計が含まれており、被告の設計監理料の設定につき実施設計が含まれていること、被告は、実施設計業務の一部をゼネコンに担当させるが、費用負担は被告にあるとしていることが認められるので、本件業務の内容には、実施設計が含まれていたものというべきである。
二1 本件契約解除に至る経緯について
《証拠略》を総合すると以下の事実が認められる。すなわち、
(一) 原告は、平成元年ころ、本件土地と同一敷地内に存在し稼働中の聖マリア・ナーシング・ヴィラの建物(以下「旧建物」という。)が、建築後約二〇年を経過し、防災上、スプリンクラーを設置しなければならない等の事態が生じたので建物の増築ないし新築を計画し、これを、旧建物の設計を担当した林設計士(以下「林」という。)に依頼したこと、林は、増築用の図面を作成したが、右図面によれば、在院者の移動や安全確保の点などに支障があることが判明したため、原告は右増築計画を断念して、あらためて、新築用の図面の作成を林に依頼し、林は、計六枚の図面を作成したこと、右各新築用図面は、林が原告の希望や意向を図面化したものに過ぎず、関係法令等を調査の上、作成されたものではなく、地域住民の日照に関する問題も解決されていなかつたこと、
(二) 右のとおり、原告の新築計画が検討されていた平成二年一月一〇日ころ、原告と取引のあつた訴外沢田を通じて、被告が原告に紹介され、原告は、アメリカのナーシングホームについてのノウハウを持つているという被告に本件建物の新築設計を依頼することとし、同年二月七日、原告被告間で本件契約を締結したこと、本件契約の報酬については、被告は、その内訳について、マスタープラン、基本構想及び基本設計までを四〇ないし四五パーセント、実施設計を三五ないし四五パーセント、デザイン及び工事監理を一五パーセントとし、報酬総額については、当初金一億七〇〇〇万円を見込んでいたが、原告が今後も同様の企画を一〇箇所で行う予定があるとのことで、金一億二〇〇〇万円で合意したこと、また、被告としては、本件契約を締結するに当たり、本件業務のうち、<1>マスタープラン、基本構想、基本設計及び設計監理はアメリカのKMD社と協力して行う、<2>本件建物建設については、土地の用途、容積率、建蔽率及び高度の制限、老人ホームの設置基準、併設されるクリニックについての保健所の監督並びに埼玉県高層建築物の建築に係る指導等に関する要綱による規制等が存し、これらの各規制につき、事前調査及び関係諸官庁との打合せ(以下「規制に関する調査及び打合せ等」という。)を行う必要があつたので、これらの規制に関する調査及び打合せ等を林に担当させる、<3>実施設計は大手建設業者いわゆるゼネコンに行わせた上、林にその図面の検査を行わせる、<4>建具、什器備品、内装及び照明等についてそれらの業者と協議を重ねて業務を遂行する、<5>右業務全体の進行を被告がプロデュースするという構想を有していたこと、そこで、被告は、原告にアメリカのKMD社を設計に使用することを説明し、原告はこれを了承したこと、林については、原告からの依頼は打ち切られたが、被告が、地元の設計士である林に規制に関する調査及び打合せ等の担当として被告の設計業務に参加させることを強く希望し、被告の下請として使用することとなつたこと、被告は、右構想に基づき業務を開始し、KMD社との間で、本件建物のマスタープラン、基本構想、基本設計及び設計監理を下請けさせる契約を代金七〇〇〇万円で締結したこと、
(三) そして、同年二月九日、一五日、一六日、一七日、二一日、建築予定地の熊谷において、被告代表者、被告の社員の茶谷、原告代表者、同人の妻で園長の橋爪文子(以下「園長」という。)、原告の事務次長磯山(以下「磯山」という。)、林、内装、照明、建具及び硝子等の業者(以下「関係業者」という。)並びにKMD社の社員らが順次適宜に打合せ(原告、被告及び関係業者との打合せを特に「建築準備友の会」という。)を行い、業務の遂行に関しての計画がほぼ確立され、また、原告の従業員に対するアンケート、旧建物の見学などの現地調査が行われたこと、そして、同月二三日、KMD社からマスタープランのプレゼンテーションが原告及び被告に対してなされたことにより、マスタープランの作成は終了し、続いて、同月二四日、被告とKMD社との間で基本構想等に関する打合せが行われたこと、被告は、同年三月七日、熊谷において、「建築準備友の会」の三回目の打合せを、同月二一日、茶谷及び林の打合せを、翌二二日、旧建物の現地調査をそれぞれ行なつたこと、この間、林は、未だ図面が完全なものでないなどの理由から、本件建物につき具体的な意見を述べるまでには至らず、また、被告から林に対して、実施設計図面を検査する業務を金二〇〇〇万円で行うよう依頼があつたが、林は報酬が見合わないとの理由でそれを断るなどし、本件建物について具体的な助言等は行わなかつたこと、
(四) 同年四月に入り、被告及びKMD社は外観パース、サイトプラン、室内案、地階・一階平面図、二・三階平面図、四・五階平面図及び六階・屋上平面図各一枚、東側図面、北側図面、南側図面、地階平面図、一階平面図、二階平面図、三階平面図、四階平面図及び五階平面図各一枚並びに西側図面二枚の各図面を作成し、同月三日から六日までの四日間に渡り、被告及びKMD社が原告に対するプレゼンテーションを行い、原告を交えて検討をしたこと、この際、原告から建物の規模が大きすぎるので規模を縮小するよう要望されたので、同月六日には、被告が、右各図面を修正した地階平面図、一階平面図、二階平面図、三階平面図、四階平面図及び五階平面図各一枚を作成し、再度、プレゼンテーションを行つたこと、しかし、同月四日の午後行われた、原告、被告、KMD社、林及び電気業者らとの構造、設備及び電気に関する打合せの際、林は被告の設計業務の推進方法について不満を持ち、最終的に被告の業務への参加を断つたこと、また、原告は、右の被告の案につき、建築確認、老人福祉課、保健所との関係で問題が生じないのか不安を感じるようになり、右プレゼンテーション等が行われた期間中、被告に対し、役所との事前協議、日影図の作成及び近隣対策の検討の有無についての確認をしたところ、被告は、事前協議については、特段のことはしていない旨の返答をし、日影図及び近隣対策については、急拠、顧問の安田設計士に依頼して、日影図四枚を同月中旬に作成したが、右各図面は境界線や周囲の建物が記入されておらず日影図としては不十分なものであつたこと、その後、被告は、同月七日、建築準備友の会の四回目の打合せを、同月一四日、安田設計士を初めて同行しての原告との日影図や縮小修正について打合せをそれぞれ行つたが、被告の業務遂行の方法に不安を感じた原告は、埼玉県庁、熊谷市役所及び保健所に対し、被告が事前の打合せ等に訪れたか否かを問合せ、各役所からそのような事実はないとの返答を得たこと、
(五) そして、原告は、同月一八日、被告に対し、電話で本件契約の解除を通知したこと、右解除の意思表示に至るまで、原告から被告に対し、業務の進行につき、その遅れを指摘し早期の遂行を要求することはなかつたこと、右通知を受けた被告は、同日付で甲第四号証の手紙を原告に送つたが、右手続には、「安田先生を御紹介させていただいた段階から、もう一度先生とプランの見直しを予算がらみですすめようと思つていた矢先のことで大変遺憾に耐えません。ただ、現在は基本構想の段階の段階で基本設計についてはこれからだつたのが幸いです。」と記載されていたこと、被告は、その後も、原告に対して協議を申入れるとともに業務を継続し、翌一九日、被告の安田設計士と社員一名が、埼玉県の土木事務所及び熊谷市の開発課を訪ねて調査を行い、同月二六日には、被告代表者と茶谷が渡米してロスアンゼルスのアルツハイマー施設を視察し、同年五月一日及び二日は、サンフランシスコでKMD社との打合せを行うなどしたこと、一方、原告は、被告の協議の申入れに応ぜず、同月二日、被告に対し内容証明郵便で再度解除を通告したため、被告は継続していた右業務を中止したこと、被告は、同月一〇日に、被告が行つた業務の経過を纏めた乙第一二号証を作成するとともに、KMD社に対し、本件建物の設計費用として、まず金一五〇〇万円を送金し、そのころ、KMD社から乙第二七ないし第二九号証の教会案図面三枚を受け取つたこと、また、被告は、同年六月二一日に、原告に対し、解除を撤回し業務遂行に協力するよう通知したが、原告はこれに応じなかつたこと、被告は、平成三年二月、KMD社との間で、KMD社の既済業務を基本構想の八五パーセントを完成したものと評価し、基本構想完了時点でのKMD社への報酬金三〇〇〇万円の八五パーセント、金二五五〇万円を支払う旨の協議が成立したので、同月二〇日、既払いの金一五〇〇万円に加えて金一〇五〇万円をKMD社に対し送金して支払つたこと、
以上のとおり認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。
2 以上の事実からすると、被告は、平成二年四月三日から六日にかけて原告に対して図面計二五枚を用いてプレゼンテーションを行い、同月一八日までに、それを踏まえて、原告代表者との計画の縮小修正及び日影図作成についての打合せ及び建築準備友の会を各一回行ない、原告の解除に対して被告が原告に送つた手紙には、「現在は基本構想の段階で基本設計についてはこれからだつたのが幸いです。」と記載されており、被告はKMD社との間で、KMD社の完了業務を基本構想のうちの八五パーセントと評価したというのであるから、原告が被告に対し解除の意思表示を行つた平成二年四月一八日の時点での被告の既済業務については、ほぼ基本構想を終了し、基本設計に着手しようとした段階にあつたと言うべきである。
これに対し、被告の業務の進行状態については、原告は、四月一八日の時点においては、基本構想すら完了していなかつたと主張するが、《証拠略》によれば、被告は、原告に承諾を得たものから基本設計に入つたとしていること、基本構想と基本設計は重複し得ると考えるのが相当であること及び前掲乙第五二号証の被告の業務計画には基本設計の業務の記載はないものの、同号証に記載されている五月に三〇日、六月に一〇日との基本構想図の作成の業務計画の内容は修正とされていることからすると、被告は、同年五月二日の時点で基本構想の修正に同年六月一〇日頃まで要し、基本設計として評価し得る業務は未だ行われていないが、基本構想の承諾の取れた範囲から順次基本設計に入り、基本構想と基本設計を並行して進める予定であつたものと認められ、必ずしも基本設計に入るのに相当の日数を要し、その業務が相当遅れていたというような事実を認めることはできない。
3 本件契約解除の正当性について
(一) 原告は、本件契約の解除原因として、明示的には、「設計図書に瑕疵があるとき、又は、監理業務の遂行に当たり過失があるときは被告はその責めを負う。」との約定に基づくと主張する。しかしながら、「設計図書に瑕疵がある」とは、設計図面の内容において欠陥が存し、建物の建築ができない場合や建築した建物が使用できないか使用に支障が生じる場合等を意味するものと解するのが相当であるところ、前記の事実においては設計図書に右の様な瑕疵があるとの事実は何ら認められないのであり、原告の主張は理由がないこととなる。
しかし、原告の主張を合理的に考えるなら、原告は、期限までの仕事の完成が不可能であつたとの請負契約の履行不能を根拠として解除したと主張するものと考えるのが相当である。
(二) そこで、被告の予定どおりの仕事完成が不可能であつたか否かを検討するに、《証拠略》によれば、同人は基本設計は膨大な量があるとし、平成二年四月初めの原告に対するプレゼンテーションで基本構想の承諾を得て基本設計に入り、同年七月初めまでに基本設計を完了する予定であつたとしていること、被告が同年七月初めまでに建築確認申請図書を整備しなければならない義務を負つていたとの当事者間に争いのない事実及び前記認定事実を総合すると、右義務を負つている者としては、遅くとも同年四月四日から六日にかけて行われたプレゼンテーションにおいて、基本構想としての建物の基本的な構造、平面、立面等について原告の最終的な了解を得て確定させ、直ちに基本設計に本格的に取り掛からなければならないと考えるのが相当であるので、同年四月一八日の時点における被告の業務の進行の状態を評価するなら、遅れ気味であつたというべきである。
しかし、前記のとおり、本件契約においては、平成三年一二月末日までの本件建物の建築工事の完了を目的としているのであり、原告が解除の意思表示を行つた平成二年四月一八日の段階では未だ一年七か月以上期間があり、前記認定事実のとおり、被告は遅れ気味とはいえ設計業務を遂行し基本構想をほぼ完了した段階にまで至つていたのであるから、被告が右期間内に仕事を完成することが社会通念上不可能となつたとまではいうことができない。
なお、原告は、被告は、現地調査並びに規制に関する調査及び打合せを懈怠しており、特に、「埼玉県中高層建築物の建築に係る指導等に関する要綱」は近隣関係者の承諾を取る形で運用されており、近隣関係者の反対で建築確認が下りるまで一年以上かかることは珍しくなく、本件建物の予定どおりの完成は不可能となつたと主張する。
しかし、本件全証拠によつても被告が規制に関する調査及び打合せの義務を懈怠したとの事実を認めることはできない。《証拠略》によれば、規制に関する調査及び打合せ等の時期については、それらが基本設計の業務の中に含まれるものの、基本設計と並行して行う場合もあり設計者の方針により区々であると認められる。とすれば、前記のとおり、本件解除の時点において被告は、遅れ気味とはいえ基本構想をほぼ完了し基本設計に着手した段階にあつたのであるから、規制に関する調査及び打合せ等を完全には行つていなかつたとしても、これをもつて右義務の懈怠があつたということはできない。
また、本件全証拠によつても本件建物について近隣関係者の反対により建築確認が下りるまで相当の期間を要するとの事実も認めることはできない。
よつて、原告の右主張はいずれも理由がない。
(三) ところで、前記の認定事実によれば、解除の意思表示に至るまで原告から被告に対し、業務の進行につきその遅れを指摘し早期の遂行を要求することはなかつたのであるから、原告の解除は無催告解除と言うべきで、その解除原因としては履行不能となつた事実が必要である。しかし、右(二)のとおり履行不能の事実は認められないのであるから、原告のした解除は無効である。
(四) 次に、原告は被告との信頼関係が破壊されたことを理由とする契約の解除を主張するが、請負契約においては信頼関係が破壊されたとしても、仕事の完成が不可能となるものではなく、本件において、被告の本件請負契約の履行が遅れ気味であつたとしても、それが直ちに信頼関係を破壊するものと認めることはできないし、その他信頼関係を破壊していると認めるべき具体的事実も存しない、加えて、請負契約においては、原則として信頼関係破壊の理論の適用はないと考えるのが相当であり、原告の右主張は理由がない。
4 以上からすると、その余の事実について判断するまでもなく原告の本訴請求は理由がない。
第二 反訴請求について
一 被告の反訴のうち主位的請求について
1 反訴の主位的請求の請求原因1及び同2の事実のうち原告が被告に対し本件契約の債務不履行に基づく解除を理由として業務の中止を通告したことは当事者間に争いがなく、前記第一、二の認定事実によれば、右解除は解除の要件を満たしておらず、原告が被告に対し、その後の業務遂行のための協議を拒絶し、被告の本件契約の仕事の完成を不可能ならしめたことを認めることができる。そこで、被告は原告に対し、民法五三六条二項の危険負担の規定に従い報酬の残金九〇〇〇万円の支払請求権を取得する。
なお、原告はこの点につき、<1>民法六四一条の趣旨によれば、請負契約には、危険負担の規定は適用されず、また、<2>本件契約においては、「委託者が工事の全部または一部の実施を中止もしくは廃止したときであつても委託者はこのときまでに完了した業務に対する報酬を受ける」との合意があり、危険負担の適用はないと主張する。
しかし、請負契約について、民法五三六条二項の危険負担の規定を適用しないとする理由は全く見当たらないのであり、原告の右<1>の主張は理由がない。また、「委託者が工事の全部または一部の実施を中止もしくは廃止したときであつても委託者はこのときまでに完了した業務に対する報酬を受ける」との合意の趣旨は、委託者(原告)側に事情の変更があつて本件建築計画を中止もしくは廃止することとなつて契約の継続が無意味となつた場合を定めたものと解するのが相当であり、危険負担の規定を排除する趣旨とは解されないので、原告の右<2>の主張も理由がない。
2 右1によれば、被告は、原告に対し、報酬の支払請求権を有することとなる。
しかし、以下の理由により、被告が原告に対し請求できるのは、被告の業務の出来高に応じた額に限られ、その出来高は金額にして金三〇〇〇万円を超えることはないとするのが相当である。
(一) 原告は、被告の業務が遅れており基本構想は完了していなかつたと主張するが、前記第一、二の認定事実によれば、被告は、業務を停止した同年五月二日までに、基本構想をほぼ完了して基本設計へ着手し、その後、熊谷市役所及び埼玉県庁への調査並びに訪米しての施設の調査及びKMD社と打合せをし、KMD社から教会案の図面三枚を受け取つたというのであるから、被告が完了させた業務は、マスタープランの策定、基本構想図の作成並びにそれに応じた企画に関する協議、調整及びプロデュースの業務の大部分までであり、基本設計業務に属するものについては、それに掛かろうとしていたものの、基本設計業務として評価できるものは存しないというべきである。
また、前記第一、二の認定事実によれば、マスタープラン、基本構想、基本設計までの業務に対しての報酬は、四〇ないし四五パーセントとするのが相当であり、また、既に業務を行つた期間は基本設計完了までの予定期間の約半分であつた。
以上の事情を勘案すると、被告が完了した業務の量は、多くとも基本設計完了に至るまでの業務の約半分、予定総業務量の約四分の一に過ぎないと認められる。
なお、被告は、基本設計完了までの業務の割合を、マスタープラン三〇パーセント、基本構想五〇パーセント、基本設計二〇パーセントと主張し、乙第五二号証には、全業務日数として一〇〇〇日、マスタープランまでの業務日数が一六五日、基本構想の業務日数が二五〇日、基本設計の業務日数が二〇〇日と記載されているが、その根拠は明らかでなく、また、被告の右主張とも一致していないことからすると、被告の右主張は採用できない。
(二) また、前記第一、二の認定事実によれば、被告の業務遂行は、遅れ気味であつた。
(三) このように、完了した業務量が予定されていた全業務量の多くとも約四分の一に過ぎず、業務遂行も遅れ気味であつた本件の場合、危険負担の規定により債務者である原告が報酬全額を取得できるとするのは、信義則上相当でなく、原告が請求できるのは出来高に応じたものに限定されると解するのが相当である。
そして、原告が完了した業務量は前記のとおり、多くとも全業務量の約四分の一であるから、それに対する報酬としては、総報酬額金一億二〇〇〇万円の四分の一の金三〇〇〇万円を超えることはないというべきである。
(四) ところで、出来高に応じた報酬の算定について、被告は以下のとおりの根拠を述べているが、いずれも採用できない。
(1) まず、被告は、同年二月中の既済作業に対応するものとして同月末日に金三〇〇〇万円が支払われ、さらに、同年三月から同七月までの作業に対応して金三〇〇〇万円が支払われる予定であつたが、被告はそのうち半分の作業を終えており、合計金四五〇〇万円に相当する作業を終えていたとする。
しかしながら、本件全証拠によつても、同年二月中の既済作業に対して金三〇〇〇万円が支払われたと認めることはできない。むしろ、《証拠略》によれば、同人は、同月末日に支払われた金三〇〇〇万円は手付金的な内金として支払われ、基本設計の完了と連動して同年七月末に金三〇〇〇万円が支払われることとなつていたと認識していたと認められること、《証拠略》によれば、基本設計までの設計料率が四〇ないし四五パーセント、実施設計の設計料率が三五ないし四〇パーセント、デザイン監理及び工事監理の料率が一五パーセントとされていること及び総設計料が金一億二〇〇〇万円であることからすると、同年二月末日に支払われた金三〇〇〇万円は、内金として、基本設計までの業務と実施設計業務のそれぞれにその設計料率が満たされるまで充当されるものとして支払われたと認めるのが相当である。
したがつて、同月中の既済作業に対応するものとして同月末日に金三〇〇〇万円が支払われたことを前提とする被告の右主張は理由がない。
(2) 第二に、被告は、基本設計完了までの業務量は全業務量の四〇ないし四五パーセントに相当し、それに対応する報酬額は金四八〇〇万円ないし金五四〇〇万円であるところ、被告が完了した業務は基本設計完了に欠けること約一割に過ぎず、金四三二〇万円ないし金四八六〇万円に相当する作業を終えていたとする。
しかしながら、本件全証拠によつても、被告が完了した業務が基本設計完了までに約一割が欠けるに過ぎないと認めることはできない。
前記一2(一)のとおり、被告の作業量の評価は、多くとも基本設計までの業務量の約半分、金額にして約金三〇〇〇万円を超えることはないと認めるのが相当である。右の完成済みの図面からの建築確認申請用図書の作成は容易であり、被告の既済業務量が基本設計完了に欠けること約一割との被告の主張は採用できない。
よつて、被告の右主張は理由がない。
(3) 第三に、被告は、右KMD社に対し、報酬として予定されていた総額金七〇〇〇万円のうち三六・四三パーセントに当たる金二五五〇万円を支払つており、これを被告が原告から受ける報酬に当てはめると、被告は、約金四三七一万円分の作業を終えていたことになるとする。
しかしながら、前記第一、二の認定事実によれば、被告が、KMD社に委託した設計業務は、マスタープラン、基本構想、基本設計及び設計監理であり、総業務料の三五ないし四五パーセントを占める実施設計が含まれていないことなどからすると、KMD社に対する報酬総額と同社が受け取つた報酬との比率から、被告が完了した業務量を算出することができるとは認められない。
よつて、被告の右主張は理由がない。
3 以上からすれば、被告が原告に対し請求できるのは金三〇〇〇万円に止まり、被告は既に金三〇〇〇万円の支払を原告から受けているのであるから、被告の主位的請求は理由がない。
二 二次的請求について
反訴請求原因1の事実は、当事者間に争いはない。しかし、反訴の二次的請求は、解除が民法六四一条に基づくものであることを理由としたものであるところ、同2の事実については、《証拠略》によれば、原告の被告に対する解除は、債務不履行を理由としてなされたものと認められるのであるから、原告の右解除の意思表示に民法六四一条に基づく解除の趣旨が含まれていたとすることはできない。したがつて、被告の二次的請求は理由がない。
三 三次的請求について
前記一のとおり、被告の完了業務に相当する価格は、既払の金三〇〇〇万円を超えることはないのであるから、三次的請求も理由がない。
第三 結論
以上によれば、原告(反訴被告)の請求及び被告(反訴原告)の請求は、いずれも理由がないから、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 星野雅紀 裁判官 金子順一 裁判官 増永謙一郎)